読書#001「夜と霧」ヴィクトール・E・フランクル

「夜と霧」は精神科医の作者がナチス強制収容所での経験を記したものです。
強制収容所にいる間に精神医学に関する新しい理論を生み出したということではなく、既に知っていた人間の心についての知識が「やっぱりそうなんだ」と確信に変わっていきます。
過酷な環境の中で、冷静に客観的に人間の心理を観察しています。

本の内容は大きく3つに分かれていて、収容前後の絶望的な気持ち、収容中の様子、そして解放された後の心の動き。
解放された時の話はとても短いけれど、特に印象に残った。
いつか解放される時が来ることを信じて、理不尽な仕打ちにも耐えて、やっと自由な外の世界へ行けた人たち。収容所で辛かった分、それを取り戻せるくらいに未来は幸せかと信じていたけど、家に帰ると既に家族はもう亡くなっていて、誰もいない。期待を裏切られて再び絶望感と向き合わないといけない現実が待っていたという。
また、ガス室で家族を奪われた仲間のひとりと作者が田舎道を歩いていた時に、その仲間は麦畑をわざとつっ切っていく。若芽を踏むことはよくないと自覚しているものの、家族を失くした自分の経験と比べたら、この程度の悪いことは許されるべきだとその人は主張したそう。精神的に抑圧された状態から解放され、今度は自分自身が力と自由を行使していいと履き違えていると作者は指摘していた。

今でも十分通じる部分があるとも思った。例えば、何か理不尽なことがあっても、先々報われるかもと耐えて、結局何の結果も出なくてがっかりするとか、自分は過去に苦労したからその分、他人にも厳しく接していいと思い込んだりとか。

作者が強制収容所の経験を振り返っている本だから、少なくとも作者は生きて帰れると分かっていたし、最後はハッピーエンドなんだと思って読み進めていた。
ところが、無事に収容所から開放されて、一緒に辛い生活を乗り越えてきた仲間たちが外の世界でそれぞれ幸せに暮らせたかというと、そう上手くはいかず。結局、外の世界でも失意と不満に見舞われ、生きることは苦しみのエンドレスだったという物語だった。
読み終わった後に、なんて救いようがなくて絶望的な内容なんだと思った。

それでも、失意に満ちた仲間たちを立ち直らせることはとても困難だが、精神医として奮い立たされ使命感を呼び覚まされると最後に作者は記している。困難な状況でも諦めない覚悟を感じた。
暗くて重いし、何かはっきりとした答えが書いてあるわけでもないけれど、答えが書いてないからこそ、また少し時間が経つと読み直したくなるだろうなと思える本だった。